RIDEX 1 RIDE 1 Seize the day.
ごほうびは「あった」
RIDEX 1 (Motor Magazine Mook)
中年の男が遅めの朝食を作る。
妻と娘はとっくに出掛けてしまっている。
太陽に照らされたキレイな庭が見える窓からの光で男に影ができる。
どうやらこの男は日常(きれいな庭からの光)では何か満たされない(日常と言う光でできる影)ようだ。
しかし器用に朝食を作る男。日常に順応してそれを器用に日常をこなしている。
朝食を食べているときに妻からの電話「食洗機のスイッチを入れといてくれるゥ」
2Pの3コマ目
男「コーヒー入れすぎちゃったー」と遠い目をする。頼まれた食洗機のスイッチを押して
「ボタンひとつで便利なものだ」
「こんな便利なものがなかったらまだ妻と娘は家にいただろう」
という寂しげな心情も読み取れる。
そして今や割りと普及した食洗機に対して、わざわざこの便利なものへの皮肉ともとれる台詞を呟きながらスイッチを押すことで「男は何か時代遅れで、なにか面倒なものに愛着がある」ような印象を抱かせる。
庭の手入れ始めるが勝手に伸びてくる木の枝に少々うんざりする男はガレージへ行く。
男が愛着を持っている時代遅れで面倒なものとは「ducati750ss」であった。
充電が完了していることに満足して初めて笑顔を見せる男。
一息つこうと、ガレージの机の引き出しからチュッパチャップスを取り出し、舐めようとすりもカビている。
「ん?しまった。カビているか………」
男は日常的にチュッパチャップスを舐めているわけではない。恐らくバイクと関わるときだけ舐めているのだ。日常と非日常。
そして左下のコマ。
「ふむ……」と
最後に750ssに乗ったのはいつだったか………チュッパチャップスがカビるほど放っておいてしまったか……
と思いを馳せる。
もしかしたらこのときまではこの日750ssに乗るつもりはなかったのかもしれない。この「ふむ……」の「間」で乗る決意をした。
つまり、煙草を吸う「非日常へ行こう」と決めたのだ。
それを表すようにプラグを掃除し始めた男の顔は「ふむ………」と言ったときと別人のようだ。
時計は既に11時40分を指している。
帰りの時間をきにしつつも750ssを表に出す。自宅から少し離れたところでエンジンに火を入れる作法を行う。自宅から離れることが彼なりの「世間との折り合いのつけ方」なのだろう。
作法が終わると男は
「あーこれかけたら後戻りできないよー」と一瞬躊躇し750ssに「いい?いくよ?」と問いかけてエンジンに火を入れた。
住宅街に鳴り響く轟音。
一斉に飛び立つ鳥田達。
男はこの瞬間から世間との折り合いをつけることをやめ、非日常に向かっていく。
まずは チュッパチャップス を買いに行く。大切なものを扱うように胸の内ポケットにそれをしまう。
煙草という男にとっての「非日常を演出してくれるアイテム」をてに入れたことで750ssもその存在感を増していく。
「おれがイタリアのducatiだ」
750ssの心臓の音が高鳴っていく。
準備ができたところで男はギアを一足に入れた。
今まで自販機の前(日常)にいたはずなのに一瞬で青空へかけ上がっていく(非日常)二人。
少しずつ久しぶりの対話をしながら走る二人。
途中で先行のバイクを抜く。
調子は戻ったようだ。
どんどん速度をあげワインディングをクリアしていく。夏のビーナスラインのようだ。
少し日が傾いできたところで男は休憩をした。
ビーナスかと思っていたがここはまさかの大観山のレストハウスだ。
ターンパイクできたのか、椿ラインできたのか。恐らくこのライダーは箱根方面からは来ないだろう。箱根はつまらない。
「箱根に走りに行きませんか」というライダーを僕は信用しない。「星の王子さまが好きでしてね」というならば話は別だ。勿論星の王子様ミュージアムには付き合うが、「走るために箱根に行く」など正常な判断ができているとは思えない。
一瞬脱線しましたが話を戻します。
突然「パシュン」という謎の効果音が入り、「ん?」と心臓の辺りを押さえる男。
撃 た れ た か ?
いや、ライターを忘れたことに気づいただけだ。
「パシュン」はきっとみちの向こうで富士山と芦ノ湖を撮っているドライバーのカメラのシャッター音だ。
売店を見ているのはスナイパーを警戒しているからではなく、売店への距離と750ssとの距離を見定めている。売店でライターを買うかどうか。
階段の中腹に座っているとすると、距離はまじで5分5分だ。
750ssが
「え?おれっすか?」
という顔をしている。
「やっぱりおれか・・・」
結局エキパイをライター代わりにされる750ss。戯れる二人の間に突然女性が入ってくる。
火を貸して欲しいとのこと。
この女も日常では チュッパチャップス を舐めない。男と同種の人間なのだ。
さっきまで凄くいい感じだった男が急に馬か鹿っぽい顔になり「生憎これしかなくてね」という。この豹変ぶりはなんだ。人が違うぞ。
階段の中腹で一緒に チュッパチャップス をなめる二人。
喫煙所は階段を降りて右だ。嫌煙時代の真っただ中で自分を持ち過ぎだこの二人。もっと肩身を狭くしないと嫌煙のおばちゃんが隣でわざとらしく咳き込むぞ。
女「素敵なバイクね。ずいぶんとばしていたみたいね」
男「あはは時間がなくてすぐ戻らなければならないんだ」
もはや顔が別人である。凄く悪いことを考えている顔になっている。東南アジアの意地悪なばーさんみたいな。
階段に腰掛けていたと思ったが一歩前に進んでしゃがんでいる。腰をかけていない。
前 の め り に な っ て い る ぞ 。
女「私のバイク1000ccなのにナナハンに抜かれたわ。」
男が走り始めて抜いたときはカタナに見えたが、女のバイクはGPz1100のようだ。夏だからサイドカウルを外しているのか。フルカウルあるあるだ。なんという稀少なバイクに乗っているんだろう。
「私のバイク1000ccなのにナナハンに抜かれたわ。」といっている辺り男と女が喫茶店でお茶してる雰囲気になっている気がする。
次の750ssドアップのコマで「このバイク……………みたいだわ。」と意味深発言。
ただ単に「あらーもしかしさっき抜いていったナナハンお宅ー?いやー奇遇奇遇!」
というニュアンスであれば
咥え煙草で「私1000ccなのに」「抜かれたわ」とは言わない。
何か伏線か?
女はもう一度勝負を申し込む。
男は
「勝ったらゴホウビはなにかな」
ゴ ホ ウ ビ
キンモー
突然どーした。
もーだめだ。顔がもう走り始めたときと全然違う。「なんかおかしーなー」と思ってたけどもーだめ。
非日常に来すぎて男も女もわけわかんなくなっちゃってる。
走り出す二人。
男が先行しているように見える。
—シーン変わりまして—
妻と娘の帰宅を迎える男。
何故か妻と娘は影で表現されている。何か暗いものを感じる。二人を描かない東本さんの優しさ的な。怖さ的な。
妻のが庭を見て一言
「 ず い ぶ ん ス ッ キ リ し た じ ゃ な い 」
女から男にゴホウビはなかったんだ!
一緒に走っただけであのあとすぐに帰宅して庭の手入れをして、庭がスッキリしたんだ。日常へお帰りなさい。
と思ったのも束の間・・・
最後のコマで750ssが「キキン」鳴っている。ついさっきまで走っていたということだ。
午前中に庭仕事は片付いていた。気持ちよくバイクで走ってスッキリしたのは男の方だった。
ゴホウビのお茶はあったんかーい。
※書くのが凄く面倒だったのでこれからは「手元にライデックスがある前提」ですらすら要点だけやりたいと思います。
僕にロッコルを履かせて!
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